有事の際が買われて円高になる理由【円が本当に安全資産なのか?】



為替や株式相場は、他人の予想を予想して値が決まるものだ。

一つ例を挙げよう。金利の動きから為替を予想してみてほしい。

まず、日本の金利が低いままでアメリカの金利が上がったら、どうするだろうか。

低い金利である日本の銀行からお金(円)を借りて、高い金利のアメリカの銀行にお金(ドル)を預けるだろう。それによってより多くの利子をもらうことができる。

なので、借りた円をドルに両替する人が多く出てきて、円売りドル買い(つまり円安ドル高)の流れが予想される。

円の価値が将来下がると予想されるなら、実際に安くなってしまう前に円を売ってしまおうという人が多く現れるので、ちょっとした事前のニュースによって為替が敏感に変動してしまう。

そのちょっとした事前のニュースというものは、中央銀行の議事録の公開であったり、地震のニュースであったり、大統領選の速報だったりと様々だ。円が買われるとされるイベントと円が売られるとされるイベンドが同時に起きることもあり、それをどう判断するかは投資家それぞれの主観によるものなので、為替の変動がどうなるかなどは完全に予想できるものではないのだ。

 

2016年のトランプ大統領誕生が最たる例である。トランプの政策は円安要因が強いとされるが、何か不景気なニュースや予想外なニュースが流れると円高に傾くこともあり、トランプ氏優勢の報道後、最初の数時間では一気に円高に傾いていった。しかし、その後は、それを上回る勢いで円安へと進む。どこがターニングポイントになって円が売られ、その後逆に円が買われたかは色々後付けできるかもしれないが、結局は感覚的なものだ。

 

中でも「ネガティブなニュース/予想外のニュースが流れると、リスク回避のため円が買われる」という一種のノリは面白い。そういったニュースが流れると、大なり小なりほぼ確実に円高に傾く。

ぼくはそういうノリなんだととして普段深く掘り下げてこなかったが、イギリスEU脱退やトランプ大統領選出などのニュースも続き、為替の動きについての話題が特に多いので、ここらで記事にしてみようと思う。

 

有事の円高の理由1.「円は今までずっと金利が安かったため」

いわゆる「キャリートレード」が行われていたからだ。資金の借入を、金利の安い通貨で行う。そして、金利の高い他の通貨や金融商品を買って、金利差の分収益を得る、という資金運用手法である。

特に、景気が良く、各国通貨の金利が高い場合などであれば、より低い金利の通貨で資金調達をしたいところである。

しかし一方で、キャリートレードによって資産運用をしていた場合に、急に世界的に景気が悪くなり、投資先で予想していた収益が上がらないことが予想される場合や、金利の変動性が高くなってリスクとなる場合には、保有している通貨・資産をもともと資金を借りていた国の通貨・資産に戻すことになる。

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上記は各国の政策金利の推移である(一番データが取りやすかったので政策金利したが、銀行金利もこれに準ずる)。

日本円JPYは最も安定的に低い金利で推移している。2008年リーマンショック以前は、主要通貨の中で最も金利が低くなっており、2008年以前はキャリートレードの手法で大いに円建で借りられ、その後円が売られていた。

しかし、リーマンショック後は各国の景気が一気に悪化し、金利も下がってしまったため、ここで円が買い戻されることになり、円高が急進することとなった。

この背景があるため、何かしらのショックが起こると、円が買われ(買い戻され)、円高が進むことになる。円建で資金調達をしていない者であっても、上記の流れで円高が進むことを予想するので、いち早く日本円を買おうとする。

ユーロEUR、米ドルUSD、スイスフランCHFの金利がここまで下がった現在でも、その条件反射的な”ノリ”は残っている。

 

有事の円高の理由2.「日本は対外純資産が世界で最も大きいため」

日本の対外資産合計945兆円に対し、負債合計が578兆円。差し引きで算出される純資産合計が366兆円であり、24年連続で世界1位である(2016年現在)。

理由1でも述べたが、投資先で予想していた収益が上がらないことが予想される場合や、金利の変動性が高くなってリスクとなる場合には、保有している通貨・資産をもともと資金を借りていた国の通貨・資産に戻すことになる。

世界的に景気が悪くなれば、海外に投資している分を引き上げることになり、円が買い戻される。

在外投資している資産の絶対量が多いので、この影響を大きく受ける。

 

有事の円買の理由3.「円の流動性が高いため」

国際決済銀行の調査によると、米ドル40%超・ユーロ15%超に続いて、日本円10%超は世界で三位の取引高を誇る。

日本円の流動性はかなり高い部類だと言えよう。

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(引用:2016年国際決済銀行の調査についてブルームバーグ)。

では、流動性が高いと、なぜ有事に買われるのか。それは通貨の流動性が低いほど、大きなリスクを抱えるからだ。

スイスフランを例に挙げよう。スイスは政治的中立性を保ち、大量の金を準備しているとされており、フランは安全資産と呼ばれる。また、金利は低く、日本円と条件が近い。異なる点として、この通貨はドルや円に比べ、取引量が少ない(→流動性が低い)。

この「取引量が少ない」ということによって、2015年に大事件が起きているのだ。

2011年、フラン高に悩まされていたスイスは対ユーロの上限値を1.2になるよう為替介入することを宣言し、為替が安定していたのだが、2015年に突然為替介入を止めることを宣言する。これによって、ユーロフラン相場は一時41%下落。そして。スイスフランに買い注文が殺到して一時的に決済できなくなった。その間も市場は動いているため、とんでもない損をした人がいた。

つまり、流動性の低い通貨は予想外の政変や戦争・テロ・天変地異などで取引が困難になってしまい、一気に損益が膨らむ可能性を秘めている。これでは有事の際に避難する先の通貨には適さないだろう。

よって、有事の際に買われる要因の一つとして、「通貨の流動性が高いこと」があげられる。

 

有事の円高の理由4.「外貨準備高が世界トップクラスであるため」

外貨準備高もトップクラスであることから、仮に大幅な円安に振れても、ドルを売って円を買い支える余力がある程度あると言える。

2015年12末時点で、USD換算で1.2兆ドル保有。貿易金額世界一位である中国の3.2兆ドルに次いで2位である。

 

日本円は安全資産なのか?

さて、タイトルに戻るが、果たして日本円は安全資産だから有事の際に買われるのだろうか。

正直、債務不履行になる可能性が他国に比べてどうなのかを比較する知識も時間もぼくにはない。少なくとも、GDP成長率は全く延びていないし、日本国債の信用格付けは他の先進国より低い。他国に比べて安全だという感覚はないだろう。

ただ、一般的に安全資産として「米国債」「金や銀などの貴金属」「原油」「銅などのベースメタル」などがあげられ、共通項として「流動性が高いこと(=交換が容易)」があげられる。(どれも換金性が高く、基軸通貨の米ドルで取引されている。)

理由3で述べた通り、日本円も世界で三番目に取引高が多く、この流動性という条件はある程度満たしているといえる。

また、安全資産として、「テロや戦争が比較的起きにくい国の通貨である」という理由が度々あげられるが、地震も多く、近海にミサイルがしょっちゅう落ちていて、本当に安全な国なのかは何とも言えない。東日本大震災が起きた直後ですら円高の動きがあったので、「大きな事件・事故が起こる国の通貨にはリスクがあるため、買われない」という発想よりかは、理由1~4が主要因になっているのだと思う。

また「対外純資産」だが、日本が外国に「貸している」のではなく、自己責任で勝手に証券や不動産などに「投資している」だけであり、元本保証ではない。外国債券などはその国の政府によって保証されているが、その国が破綻したら紙くず同然。株や不動産にいたっては、「日本人が自己責任で勝手に投資している」に過ぎず、「対外純資産が大きい = 日本の安全性が高い」とはただちに結論を下せないだろう。

というわけで、安全資産だから買われるというのは言いすぎであり、主要因は本エントリーと前編であげた1~4であると思う。

 


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