全米7位の大企業がなぜ突如破綻したか?~エンロンの攻撃的経営、資金調達と不正会計~



2001年12月2日、米国大手エネルギー商社である「エンロン」が倒産した。

2000年度の売上高は全米7位($100,789 million)。時価総額は全米51位($49,668 million)。米国大手ビジネスであるフォーチュン誌は、アメリカで最も革新的な企業として6年連続でエンロンの名前を挙げていた。格付機関からの評価も、投資適格とされるBBBである申し分のない格付けだった。

だが、それはあくまでエンロンの公開する財務諸表を信じれば、の話だ。実際にはエンロンは、3,500社もの連結対象外のペーパーカンパニーを保有し、そこに損失を飛ばしていた。エンロンを優良企業と信じて融資をした銀行や、投資をした証券会社は大きな損害を被り、金融機関の商品を購入した法人/個人投資家も煽りを受ける。そして何よりも会計事務所との癒着が問題となった。


 

このエンロン事件を扱った小説「青い蜃気楼」が非常に面白く、また前々から不正会計特集を組もうと思っていたこともあり、今回から本件を取り上げる。個人的には、積極的に資金調達をして新たな事業に挑戦するエンロンには、見倣う部分もあると考える。

そしてやはり巨大な会社がおかしくなく様というのは、どういうわけか非常に興味深く感じられる。欲や恐れ、恨みなど、感情にまみれているからだろうか、とてつもないエネルギーを感じる。

 

エンロン社の成り立ちと事業

もともとは1985年にガス会社の合併によりできた会社であり、当時はアメリカの荒野にパイプラインを引いて、天然ガスを供給する旧来の中堅企業だった。

ところが、89年に「天然ガス卸売り」、94年に「電力卸売り」という商社ビジネス。97年に「天候デリバティブ」、99年には「エネルギー取引のインターネットサイト(エンロン・オンライン)」などより金融・ITをふんだんに取り入れる。2000年に光ファイバーによる「ブロードバンドビジネス」などの事業にも乗り出し、基本的には新しい技術や規制緩和によって成り立つビジネスを展開していた。

しかし、その裏では、自社に都合の悪い規制を回避すべく、莫大な政治献金を行っていて、中でもブッシュ元大統領とのつながりが強かった。

そして、創業15年にして、アメリカで売上高7位の企業にまで成長する。

(ちなみに日本企業でいえば、「ソフトバンク」に似ているかもしれない。儲ける事業なら何でもやる多角的な経営で、政治家とも仲が良い。今後のソフトバンクをよく見ていきたい笑)

 

エンロンの攻撃的な経営手法

エンロンは基本的に下記の1~4を繰り返す。

1.決算数値を実際よりも良く見せる

2.政治家やアナリストを接待あるいは恫喝

3.規制突破&大量の資金調達によって事業を拡大

4.事業に失敗しても会計士・投資銀行と一緒に損失を隠し

 

1. 決算数値を実際よりも良く見せる

長期売電契約を結んだとしても、こちらの電力の提供に応じて収益計上を行うのが原則だ。

しかし、エンロンは長期売電契約を結ぶと、その契約から得られるであろう利益を一括で契約年に計上する。まだ電力を売っていなくとも、将来得られる収益の数字を自分で作り、それを現在の価値に置きなおして一気に収益計上する。

この計上方法は当時の米国会計原則から見て、違法性が高いものとはいえない。金融業でしか使われない会計手法を、エンロンは非金融業に応用したのだ。(ただ、将来得られる収益を楽観的な数値で自ら作っていたことは)

これによって、事業が赤字であっても、どんどん長期契約を取ってきて、前倒しの見込み計上をしていき、あたかも莫大な利益があがっているように見せかけた。

 

2. 政治家やアナリストとの親密な関係性

政治家への資金提供、そしてエンロン寄りのエネルギー政策や外交を実行してくれた政治家にはエンロン内天下り先を用意した。発電所プロジェクトについてインド政府とエンロンの交渉が難航していた際に、アメリカ政府からパウエル国務長官が事態収拾のために派遣されるほどだ。

また、アナリストとの癒着も深刻だった。エンロンが明らかにおかしな状態になり、株価が$1を切ったときでも、証券会社は「strong buy」を勧めるレポートを書いていた。

 

3. 規制突破&大量の資金調達によって事業を拡大

1によって定量的にも良質な財務状態を保ち、2によって定性的にも事業拡大、外部から高く評価される。すると、エンロンやエンロンの子会社の発行する株や債券も買われ、銀行の融資の枠も広がる。これにより、莫大な運転資金を入手する。

 

4.事業に失敗しても損失を隠し(with会計士/投資銀行)

事業が失敗すると、それを挽回するにはまた運転資金が必要になる。しかし、失敗すると、上記の1で頓挫することになってしまうので、その失敗は隠さなければならない。

そこで考えたのは、会計上連結をしなくても良い形でペーパーカンパニーを作り、そこに損失や不良債権を押し付けるスキームだ。青い蜃気楼」では、「オフバランスの魔術」と呼んでいた。(バランスシート上に載せないことをオフバランスと呼ぶ。このスキームについては次回のエントリーにて詳しく解説しよう。)

当然、会計事務所を通さなければこんな決算など締められないし、ペーパーカンパニーを通じて金融商品を作った投資銀行もグルである。

 

不正会計の限界と、巨大企業の崩壊

銀行や投資家がエンロンの株や債券に莫大な金を投融資する中、事業の失敗によってエンロンの不可視の負債は積みあがっていっていた。ペーパーカンパニーも様々な種類があったが、エンロンの持つ事業体の株価をヘッジする目的の会社があった。

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詳しい解説は次回するが、「エンロンの株式/事業体株式のオプション差損」でバランスさせて損益を繰り延べているため、エンロンの株価が一定以下になると、債務超過に陥り、損益を親会社が認識しなければならなくなる。要は、株価のみがエンロンを支えていた。

だが、2001年に入り、$10億以上の過去の投資の失敗がいくつも発覚し、株価は低落。下記は倒産する年である2001年エンロンの株価だ。

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(※画像引用:大和インベスター・リレーションズ「エンロン裁判:IR責任者マーク・ケーニッグ氏が語る、生々しい現場」)

株価は限界を切ると、当時のCEOスキリング氏は、”個人的な理由”で退職。その期の決算で、「過去の投資の減損」「関係会社とのストラクチャードファイナンスの清算」で$10億の特別損失を計上、そこからは証券取引所の調査なども入り、株価の下落は止まらず、12月2日ついに破産手続きを始める。

 

エンロンのアグレッシブさに倣う部分

ぼくはエンロンの行動には倣うべきこともあると思う。

当然、不正会計をして投資家や銀行を欺くようなことは絶対にやってはいけない。だが、投資家や銀行からありったけ金を集めて、誰も挑戦していない新たな市場をどんどん切り開いていく姿勢は、見習うべきだ。

いま、日本の会社は、「決算が厳しいから在庫を持つな、経費を削れ」とばかり言っているし、ぼくも経理としてそう言ったことはある。それは正しい。

でも、それだけ言っているのでは、今後先細っていく日本経済とともに沈んでいくのを待つだけだ。攻めるべき市場にはとことん金を注ぎ込むべきだ。そのためには、会計上正しい範囲で決算やIRの見せ方を考える必要があるし、もっと投資家や銀行に取り入って金を借りるべきだ。エンロンは違法なことをして、人々を欺いたから罰せられるべきだが、そのスピリットには倣うべき部分があると思う。

(もっと言うと、だからこそ、コンプライアンスは最重視すべきだ。ビジネスをするにも、決算を開示するにも、資金調達にも、コンプライアンスが関わってくる。それができていないのにとことん攻めたエンロンは、破綻して当然だ。)

 

参考書籍

ここまで読んで面白そうだと思った方々には、この本は間違いなくオススメできる。

特にオススメできる人は、エネルギー関係の企業に勤める方。大手金融機関・証券会社・会計事務所に勤める方。そして金融機関の商品を購入している投資家の方々。ぜひ手にとってもらいたい。経営における決算・IR・資金調達の重要性を歴史から学ぶことができる。(特に資金調達)

 

 


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